AIアダプションとは「AIを前提に業務プロセスや事業モデルを再設計すること」です。

2026年現在、AI活用はツール導入だけでなく、この設計力が競争力を左右します。
ChatGPT、Gemini、Copilotなど「AIツールはひと通り試した」「生成AIも社内で触っている」。
多くの事業開発担当者が、いままさにそんな段階にいるのではないでしょうか。
2025年時点で世界で約9億人(世界人口の11%)、日本でも10人に1人程度が日常的にAIチャットボットを積極的に使っていると推計されています。
しかし2026年現在、AIを巡るフェーズは明確に一段進んでいます。
問われているのは「どのAIツールを使うか」ではなく、「AIを前提に事業をどう設計し直すか」です。
この変化を示すキーワードが「AIアダプション」です。
本記事では、調査データと事業開発視点を交えながら、AIアダプションとは何か、そしてなぜ今これが重要なのかを整理します。

 

事業開発担当者が知るべき「AIアダプション」とは何か

AIアダプションとは、AIを単なるツールとして導入する段階を超え「AIを前提条件として業務プロセスや事業モデルを再設計すること」を指します。
重要なのは「AIを使う」だけではなく「AIが存在する前提で、事業の構造を組み替える」という点です。
この構造は、かつてのインターネット普及と非常によく似ています。
インターネットも当初は、メールやWebサイトといった便利なツールとして使われていました。
しかしやがて、EC・予約・決済・物流・金融・行政へと浸透し、事業インフラそのものになっていきました。
AIも、今まさに同じ道を辿っています。

 

事業開発においてAIが実験段階を終えた理由(ガートナー分析)

AI事業の広がりを数字で最も端的に示しているのが、ガートナー(Gartner)の予測です。
ガートナーによると、2026年の世界のAI支出は2.5兆ドル(375兆円)に達する見込みとされています。
ここで注目すべきは、この支出の多くが「新しいAIモデルを開発するため」ではなく、企業がAIを業務や事業に組み込むために使われている点です。
つまりAIは「一部の先進企業の実験」「IT部門だけのテーマ」ではなく、あらゆる業界・あらゆる事業にとっての前提条件になりつつあります。

 

AIはインターネットと同じ順番で事業に浸透する

インターネットは、いきなり社会インフラになったわけではありません。
まずはメールやWebサイトといった周辺業務から始まり、次にECや予約システム、そして物流・金融・行政へと広がっていきました。
AIも同様です。
初期段階では、チャットボット、文章生成、要約、検索といった「分かりやすい効率化」から入りました。
しかし現在は「判断が行われる構造そのものをAI前提で組み替える」段階に移っています。
これこそが、AIアダプションのフェーズです。

 

事業開発におけるAIアダプションの具体例/業界別に見る「AI前提の業務再設計」

AIアダプションが進むと、AIは「補助ツール」ではなく、業務や事業の中で「判断に参加する存在」になります。
以下は、すでに現実に起きている3つの代表例です。

・製造業:AIが工程判断に入る「シーメンス(Siemens Digital Industries)社の取り組み」
シーメンスでは、自社工場で設備センサー・品質データ・稼働履歴をAIで統合し「どの工程を止めるか/続けるか」「生産順序をどう変えるか」という判断にAIを直接使っています。
その結果、工場によっては生産性10〜20%改善、ダウンタイム30%削減といった成果を公表しています。
従来の製造現場では、どの工程を止めるか、どこを優先するか、どの順番で生産するかといった判断は、現場の経験者や管理者に依存してきました。
AIアダプションの段階では、AIがセンサー情報・稼働データ・不良履歴をリアルタイムで解析し「次にどの工程をどう動かすべきか」という判断に直接関与します。
「設備の性能」ではなく「AIを前提に工程をどう設計しているか」で製造業の競争力に差がつき始めています。

・営業・マーケ:AIエージェントによる業務再設計「セールスフォース(Salesforce)社の取り組み」
営業やマーケティング領域でのAIアダプションは「AIエージェントの実装」という形で進んでいます。
AIを起点とする営業組織そのものの再定義が起きています。
セールスフォースでは、CRM上の顧客データ・商談履歴・行動ログをもとに「どの顧客に、いつ、何を提案するか」をAIが設計。
営業担当者は「リード精査」「フォロー文面作成」「次アクション判断」から解放され、関係構築や交渉に集中でき、導入企業では営業生産性の2桁%改善、商談サイクル短縮が報告されています。

・バックオフィス:AI前提の承認・判断フロー「サップ(SAP)社の取り組み」
SAP社では、AIがバックオフィス業務の承認作業を実施する際は、過去のデータに基づき「通常承認」「注意付き承認」「人判断必須」などに自動振り分けをしています。
その結果、承認スピードの大幅短縮・管理職の判断負荷削減・内部統制の強化を同時に実現しました。
これら3つは共通して「AIが作業を代替している」というより「判断が行われる構造そのものをAI前提で組み替えている」と言えるでしょう。

 

マッキンゼーが示すAI活用企業の「二極化」

https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai

AI活動事業の二極化を明確に示しているのが、マッキンゼー(McKinsey & Company)の調査です。
マッキンゼーは、単にAIツールを導入した企業と、AIを前提に業務プロセスやビジネスモデルを再設計した企業の間で、成果の格差が広がり始めていると指摘しています。
前者は、チャットボット導入などによる部分的な効率化に留まります。
一方、後者は、AIエージェントなどを活用し、業務の流れそのものを組み替えています。

マッキンゼーは、この後者を「ハイパフォーマー」と呼び、収益成長や競争力の面で明確な差が出ていると分析しています。
ハイパフォーマー企業では、AIを新規事業開発やプロダクト設計・顧客体験の刷新といった売上成長に直結する領域に使っており、営業利益が平均で数ポイント改善しています。
成果の差は、AIを「効率化ツール」として使っているか「事業を作り変えるための前提条件」として使っているかにあります。

 

AIアダプションの3つのステージ

事業開発の現場で見ると、AI活用は次の3段階に分けて整理できます。
① 試行導入:AIツールを試し、業務の一部を効率化する段階
② 業務定着:AIが日常業務に組み込まれ、人の判断と自然に連動する段階
③ 事業変革:AIを前提に、提供価値・収益モデル・組織構造までを再設計する段階
AIアダプションとは、①や②で止まらず、③まで進むことに意味があります。
ここまでの話を整理すると、事業開発担当者が考えるべき問いは明確です。
「どのAIツールを導入するか」ではなく「AIが前提の事業構造をどう描くか」。
AIアダプションとは、AIを便利な道具として扱うのではなく、事業の設計条件そのものに組み込むことです。
これは、インターネットが「ITツール」から「事業インフラ」になった過程と、まったく同じ構造です。
AIツールの導入・活用が広がりをみせるなか、AIアダプションを自社の事業にどう組み込むかが今後更なる飛躍のカギとなるでしょう。

 

まとめ

AI活用は、すでに次のフェーズに入りました。
・AIツールを導入する時代から
・AIを前提に、事業をどう再構築するかの時代へ
事業開発担当者に求められているのは、最新ツールを追いかけることだけではありません。
インターネット時代に事業構造が変わったように、AI時代の事業構造をどう描くか。
この問いに向き合うことこそが、これからの事業開発における最大の競争力になります。

 

【補足:DEPプロトコル構想について】

https://note.com/kozo_tx/n/n630c986c5f6c

AIアダプションが進むためには、人間の判断・行動・修正といった人間由来のデータが重要になります。
DEA社の「DEPプロトコル構想」は、そうしたデータを信頼できる形で生成・証明・流通させるためのブロックチェーン基盤として構想されています。
「AIを賢くする仕組み」ではなく「AIを事業で使える状態にするための仕組み」。
AIアダプションが本格化するほど、この領域の重要性は確実に高まっていくでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。