【ラボ ミートアップ】 ChargeSPOTは、なぜ社会インフラになれたのか 街全体を巻き込むゲーミフィケーションの可能性
「スマホの充電が切れる」という日常の困りごとを、社会を変える「遊び」に変えることはできるのか?
2026年2月24日、DEAが主催する「DEAラボ」第2回ミートアップが開催されました。
ゲストに、日本のみならず世界中でモバイルバッテリーシェアリング「ChargeSPOT」を展開する、株式会社INFORICHの梶 桃郎氏をお迎えし、DEA代表取締役社長の山田耕三を中心に、株式会社SIGNING 亀山淳史郎氏とともに「社会実装とゲーミフィケーション」の可能性について語り合いました。
震災時におけるインフラとしての決断から、環境省を動かしたルールメイクの裏側、そして「推し活」や「ギグワーク」をエンタメ化する未来の構想などを 街全体をゲームボードに見立て、人々の行動をポジティブに変容させていく「Public Play Design」の最前線をレポートします。
01. タイムマシン経営と日本的ローカライズ
〜中国で流行ったものを、ただ持ってきただけではない〜
今や社会インフラへと成長している「ChargeSPOT」。その立ち上げからグローバル展開まで、梶氏はどのように関わってきたのか。議論は事業の成り立ちからスタートしました。
梶:2018年頃、中国ではバッテリーレンタルが普及していましたが、日本には認証や商標の壁があり、まだ入ってきていませんでした。このサービス自体は非常に便利なので、日本に持ってきて日本流にアレンジし、法令遵守や安全性を担保した上で展開すればいけると考えたんです。
山田:まさに「タイムマシン経営」ですね。でも、単に持ってくるだけじゃなく、そこからグローバルに逆展開しているのがすごい。
梶:そうなんです。日本でしっかり仕様や運用ルールを統一し、それを香港、台湾、タイ、シンガポール、そしてヨーロッパへと広げていきました。世界中で同じ規格(グローバル・ユニファイド・スタンダード)で使えるようにすることで、かつてのファミコンのカセットのように、どこへ行っても同じ体験を提供できるようにしたんです。
02. 「災害時のインフラ」という公共性の獲得
〜ビジネスを超えた「おすそわけ」の精神〜
単なる便利グッズから「社会インフラ」へ。その転換点は、災害時における「無償開放」という意思決定にありました。
亀山:僕が2019年にお会いした時、梶さんは「これは防災インフラにできるんです」とおっしゃっていましたよね。実際に災害時にバッテリーを無料開放するという仕組みを、最初から設計されていた。
梶:はい。有事の際にはバッテリーを無料で貸し出すインフラとして機能させるため、我々のスタッフがバッテリーを持って避難所へ配りに回ったこともあります。2019年の千葉の台風被害の時もそうでした。あるおばあちゃんが「これで電気がついて、孫とキャンプみたいに過ごせる」と喜んでくれたのが今でも忘れられません。
山田:それを企業のCSRではなく、最初からビジネスの根幹に組み込んでいるのがすごいですよね。しかも驚くのが、日本人の返却率の高さです。
梶:そうなんです。災害時に無料で開放しても、97〜98%はちゃんと返却されるんです。「借りたものは返す」という日本人の国民性、民度の高さに支えられています。これは世界に誇れる文化だと思います。

03. 社会のルールを書き換える「ロビイング」
〜「捨てる」から「借りる」へのパラダイムシフト〜
事業を拡大する上で避けて通れないのが、法規制や社会通念との戦いです。梶氏は、リチウムイオン電池の廃棄問題という社会課題に対し、真正面からルールメイクに挑みました。
梶:リチウムイオン電池の廃棄は、産廃業者にとっても大きな課題で、規制が厳しくなっています。でも、これは逆にチャンスだと思いました。違法な安いバッテリーが淘汰され、しっかり管理されたレンタルへの移行が進むからです。
山田:なるほど、規制強化が追い風になると。
梶:さらに、環境省のグリーン購入法の指針に、「買う前に『借りる』という選択肢を検討しよう」という一文を入れてもらうために奔走しました。たった一行ですが、この一行が入ることで、国や自治体の調達ルールが変わり、社会全体の意識が「所有」から「利用」へと変わっていくんです。
亀山:バッテリーを「捨てないで」と啓蒙するのではなく、「借りればいいじゃん」という大元のルールを変えに行く。これぞまさに社会のリデザインですね。
04. 街中に置かれた「メディア」としての可能性
〜ChargeSPOTは「箱」ではなく「体験の入り口」〜
ChargeSPOTの筐体は、単なる貸出機ではありません。サイネージがあり、ビーコンがあり、通信機能がある。それは街中に分散配置された「メディア」であり、エンターテインメントのハブになり得ると語ります。
梶:僕らの筐体はAndroidボードで動いていて、裏側でビーコンを発信しています。アプリを入れている人が近くを通るとプッシュ通知を送ったり、サイネージで動画を流したりできる。最近では「推し活」文脈で、自分の好きなアイドルの映像を15秒間だけ流せる機能なんかも実験しています。
亀山:街中のコンビニや駅に置かれている筐体が、個人の推し活メディアになるなんて面白いですよね。単なる広告媒体を超えて、ユーザーが参加できる「パブリックスペース」になっている。
山田:それこそDEAの『PicTrée(ピクトレ)』とも相性がいいですよね。バッテリーを借りて、街を歩いて電柱を撮影して、また別のスポットに返す。その一連の行動自体をゲーム化できる。
05. ギグワーカーを「パブリックゲーマー」へ
〜労働を「クエスト」に変える魔法〜
バッテリーの補充や回収を行う「ラウンダー」と呼ばれる業務。これを単なる労働としてではなく、ゲームのように楽しむことはできないか。DEAラボが目指す「Public Play Design」の核心に触れる議論が展開されました。
山田:バッテリーが足りないところに補充する作業って、ゲームのクエストみたいですよね。「新宿のファミマで在庫切れ発生!急げ!」みたいな。
梶:まさにそうです。今、ラウンダー業務をギグワーク化するプラットフォームを作っているんですが、これも一種のゲーミフィケーションです。単にお金のためだけじゃなく、「街のインフラを支えている」という貢献感や、「効率よく回れた!」という達成感を提供したい。
亀山:お金はあくまで「参加するための言い訳」でいいんですよね。本質は、その行為自体が楽しいか、誰かの役に立っている実感があるか。「ウェルビーイング」ならぬ「ウェルゲーミング」というか、みんなの善意や楽しさが、結果として社会を良くしていくような仕組みが作れたら最高ですよね。
梶:返却する時の「ガチャン」とハマる音、あれだけでも気持ちいいじゃないですか(笑)。ああいう小さな快感も含めて、社会との接点をデザインしていきたいですね。

06. 「防災」をアップデートする共助のゲームデザイン
〜「やらされる訓練」を「日常の習慣」へ〜
議論は、社会課題解決の大きなハブとなる「防災」へと及びました。自助・公助だけでは限界がある有事の備えを、いかに「共助(助け合い)」の仕組みとして社会に実装するか。そこにはインフラとゲームの融合が必要不可欠です。
亀山: 防災には「自助・公助・共助」がありますが、最も仕組み化が難しいのが「共助(助け合い)」です。阪神・淡路大震災以来その重要性は叫ばれていますが、ボランティア精神だけに頼ると継続性が保てない。ここをインフラとゲーミフィケーションの力で、持続可能な「仕組み」として再設計できないかと考えています。
梶: 我々も自治体と連携していますが、実はバッテリーを避難所に「備蓄」するだけでは不十分なんです。リチウムイオン電池は放電しますし、不適切な管理は発火リスクも伴う。つまり、日常的に使われ、常に「循環」しているインフラでなければ有事に機能しません。公助による「死蔵」ではなく、街全体のインフラをみんなで動かし続けること。これこそが、僕らが目指す新しい共助の形です。
山田: その循環を加速させるのがゲームの役割です。DEAが沼津市で行った実証実験では、避難所の確認やリスク地点の点検をクエスト化しました。本来、防災は「ペット」「食」「バリアフリー」など、あらゆる日常のカテゴリーと密接に紐付くはず。しかし、普通の「点検訓練」だと面倒がられます。そこを仕事やゲームの報酬と結びつけることで、人々は自発的に楽しみながら街を強くしてくれるんです。
亀山: 山田さんの言う通り、防災はあらゆるライフスタイルと掛け合わせができる全人類共通のキーワード。重いテーマをゲームの力で「日常のついでにやりたいこと」へと変換し、無意識に共助が生まれる社会を、この連携で実装していきたいですね。
07. 楽しみながら、社会を備える
〜DEA LABO × INFORICHの共創に向けて〜
イベントの最後は、今後のコラボレーションへの期待で締めくくられました。
梶:我々はバッテリーというハードウェアを持っていますが、それをどう楽しんでもらうかというソフトウェア、つまり「遊び心(プレイフルマインド)」の部分では、DEAさんや皆さんの力が必要です。一緒に新しい「社会の遊び方」を開発していきたいです。
山田:インフラをすでに持っているINFORICHさんと、ゲームの力で人を動かすDEA。この掛け合わせで、「やらなきゃいけないこと」を「やりたくてたまらないこと」に変えていく。そんな未来を一緒に作っていきましょう。
本日の会場に来てくださった皆さんも、ぜひ「パブリックゲーマー」として、この実験に参加してください!
※当日の様子はこちらの動画をご覧ください
■関連リンク
DEA LABO 公式サイト|https://dea.sg/dea-labo/
ChargeSPOT 公式サイト|https://chargespot.jp/
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また、リアルイベントは今後も定期的に開催する予定としており、Peatixや各SNSなどで周知してまいりますので、その際には詳細をご確認いただければ幸いです。
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